文庫版『半落ち』
映画の方を先に見た横山秀夫氏の『半落ち』が文庫化されたので、思わず衝動買いして読んでみた。
<版元紹介>
日本中が震えたベストセラー待望の文庫化
妻を殺し、それでも生きる。心の奥に想いを秘めて――
「妻を殺しました」。現職警察官・梶聡一郎が、アルツハイマーを患う妻を殺害し自首してきた。動機も経過も素直に明かす梶だが、殺害から自首までの2日間の行動だけは頑として語ろうとしない。梶が完全に“落ち”ないのはなぜなのか、その胸に秘めている想いとは――。日本中が震えた、ベストセラー作家の代表作。
以下、ネタバレ注意。
10月28日の練習内容 ジョグ10キロ
10月29日の練習内容 2キロ走(時速15.5~16キロ)×5本を含む12キロ
映画の方を先に観てしまったが、特に前半部分はほぼ原作どおり忠実に映画化されたことが分かった。佐瀬検事役の伊原剛志など本から抜け出てきたような感じだ。ただ、梶の行動と黙秘の謎は、映画では新聞の投稿記事をきっかけに徐々に明らかになっていくのに対して、原作の方は映画ではカットされた最終章「古賀誠司の章」の最後の数頁で一挙に明らかになる。
映画を観て既に結末を知っていてさえ、その意外性に改めて驚かされた感があったし、志木刑事から事情を知らされ心を搏たれた刑務官古賀の計らいで、骨髄の提供を受けた青年池上一志と梶が初めて対面する場面は感動的だった。思わず「うまい」と唸ってしまった。
小説の各章が主要登場人物の名前を割り当てられ、その人物の目を通して事件の進展を描くという特異な形式になっているが、梶の沈黙が、いやおそらく彼の澄んだ目が、関係者の全てを巻き込み、敵味方の区別を超えて彼の意思を尊重する方向へと仕向けられていく様子がよくわかる仕掛けになっている。
蛇足ながら、原作では女性の登場人物が少ないためか、映画化にあたっては新聞記者中尾が女性記者(鶴田真由)に変更され、原作には出てこない女医(奈良岡朋子)を登場させ白血病の説明を担当させている。こういうところが映画作りの苦労なのだろうが、なぜ古賀を登場させなかったのか、少し腑に落ちない。
もうひとつ蛇足ながら、この文庫本には解説はついていなかった。全く必要ないし、どう書いても余計なお世話と言われるのがオチである。
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